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膵臓癌(すいぞうがん)について

[2024.04.03]

今回はすい臓癌について書きます。

残念なことに有名人が膵臓癌にてなくなる記事が多く発表されております。
過去にも多くの著名人の命を奪っていった悪性腫瘍です。非常に進行が早く、残念ながら治療効果も低い悪性腫瘍です。

国立がんセンターの発表によると、癌の発生数と死亡数は下記グラフの様になります。上のグラフが年間で癌に罹患した患者さん。下のグラフが癌で亡くなってしまった患者さんです。このグラフからいえることは、癌に罹患した患者さんと、亡くなってしまう患者さんの数がほぼ同じであると治療の効果が低く、逆に癌にかかった患者さん数が死亡する患者さん数より多ければ治癒の可能性があるという事を示しています。

がん罹患数

 

 

 

 

 

がん死亡者数

つまりこのグラフから読み取れる事は、

例えば胃がんの場合

罹患数:13万3千人
死亡数は:4万9千人

となり胃がんになってしまった人のうち、おおよそ2.7人に1人が亡くなっておりますが、言い換えれば60%以上は治療によって命を落としていないとも考えられます。胃がんでは早期がんでの無再発率は90%を超え、早期診断早期加療をするべき代表的な悪性腫瘍です。

一方ですい臓がんの場合

罹患数:3万9千人
死亡数:3万3千人

と、罹患する人数と亡くなってしまう人数が近いです。そしてこの中には比較的悪性度の低い膵臓癌(例えばIPMN由来膵臓癌)も含まれていると考えられます。IPMN由来膵臓癌は全すい臓癌のおおよそ10%であることから、いわゆる通常型膵臓癌では、その罹患数と死亡数はかなり近い値であると思われます。

このことは膵臓癌は現代の医療では多くの患者さんでは完治が難しい。という事が言えると思います。その理由は他の検査に比べて膵臓癌を早期がんで発見することが極めて困難であること、しかもやっかいなことに進行スピードが速いため、1年前の人間ドックでは異常なしであった人がその1年後にすい臓癌でしかも手遅れの状態になっているという悲しい経過をたどる事が時々生じるためです。癌の末期になると様々な臓器障害を来し、最終的には多くは呼吸不全・循環不全を来して死に至ります。

このため、現実問題としてすい臓がんと診断されてしまうと非常に厳しい闘いを予想しなければなりません。早期診断が困難で、進行が速いために医療介入ができる余地が極めて少ない現状がある為です。

では、現状では厳しいとしても「助かるすい臓がん」を見つけるにはどの様な医療的介入を行えばいいのでしょうか?この先はかなりの専門知識が必要になりますがおつきあいください。

すい臓がんの早期診断には明確な指標というのはありません。ただ一番膵臓に対して感度が高い検査は、内視鏡の先に超音波機器が接続された超音波内視鏡検査及び生検法(EUS/EUS-FNA)です。しかしながらこの検査を行える施設が限られており(当院では行えません)、またこの内視鏡検査を行う事が可能な医師には非常に高度なスキルを要求され、恐らく北海道でこの検査を行える医師はおおよそ50人程度だと思われます。また残念ながら合併症の報告もあり、「心配だから」と言う理由で行う検査ではありません。そのためあまり広まった検査ではないのが現状です。他には膵臓の管に造影剤を注入して、場合によっては病変部から細胞を採取する検査(ERCP検査と言います)がありますがこれも死亡例を含む合併症の危険性があります。結果これらの検査は、検査体制・費用・体への負担の大きさとその効果を考えると、検診としては非現実的であると思われます。

他にすい臓がんに対するスクリーニング診断の検査としては、腹部の超音波検査・造影剤を使った腹部CT(MDCT)・特殊なMRI検査(MRCP)検査があります。超音波検査は負担も高くなく簡便に行える検査であり、負担が少ない割にはすい臓癌に特徴的な所見(主膵管の拡張)を拾い上げる事が出来るので最初の検査としては有用です。しかしながらすい臓がん本体を描出するにはかなりの熟練度が必要であり、また肥満や腹部のガス等で超音波検査だけでは膵臓が確認できない事例も沢山あります。CTやMRI検査は客観的に評価ができると言う利点がありますが、CTの場合造影剤による合併症の報告や被爆による体への負担もあり、MRIは行える施設が限られていることやペースメーカが入っている方は受けられないなど制約があります。

以上より超音波検査・CT/MRI検査を行っても「助かるレベルの早期膵癌」を発見することは正直かなり難しいのが現状です。

一方で現在、様々なバイオマーカー(遺伝子検査)にて画像に出ないすい臓がんの診断を行う研究が進められています。先日はAPOA2-iTQというマーカーが、すい臓癌で優位に低下するという事で保険収載されました。またすい臓がんがどのようにして転移したり大きくなったりするのかの研究もあり、その過程をブロックすることで癌の進行を止める新しい抗がん剤の開発も進められております。また近年、以前ではありえなかった抗がん剤にて腫瘍を縮小して、それから手術を受けていただく(ネオアジュバント治療)もすい臓がんに対して一部効果があるという報告もなされる様になってきました。すい臓がんの治療は全くの暗闇というわけでもなく、一部光は弱いものの光明は存在しているようです。

これからのがん診断・がん治療の発展に期待したく思います。

 

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