バリウムと胃カメラ どちらがよい?
日々診療をしていると時々患者さんから、
「バリウムと胃カメラ、どちらがいいのでしょうか?」「バリウム検診を会社でやって(やらされて)いるのですが、胃カメラは必要でしょうか?」
といった質問を受ける事があります。イメージとしては苦痛の点で胃カメラの方がバリウム検査よりも大きいと感じるため、バリウムを選択する方が多い様です。
それに対する答えは以下の通りです
”消化器を専門とする医師に、自分が受けるとしたらバリウム検査と胃カメラ検査のどちらを受けたいか?と訊くとほとんどの医師は「胃カメラ検査」と言います。”
です。
理由としては、
①:バリウム検査ではごく早期の胃癌を発見することは困難です。特に胃の前側(前壁と言います)をバリウムで描出することは難しく、前壁にある胃癌を見逃すことが多いと思われます。また、「スキルス胃がん」と呼ばれるタイプの胃がんはバリウムの方がよくわかりやすいという報告もありますが、バリウムで発見されるスキルス胃がんは進行胃がんであることがほとんどです。
②:実は論文上バリウムと内視鏡検査における胃がん「発見率」に差はありません。しかしながら胃がんにおける「死亡率」は内視鏡検査の方が低いデータがあります(Hamashima C et al. Cancer Sci. 2015)。つまりバリウムでは内視鏡検査と比べて早期がんの発見率が低く、見つかっても進行がんが多いという事になり、検診の目的である「がんによる死亡者を少なくする」という点では内視鏡検査の方が有用であると考えられます。
③:バリウム検査は咽頭・喉頭(喉の部分)、十二指腸の評価は殆どなされません。また食道病変の評価も高くないです。つまりバリウムで早期食道がんや咽頭がん・喉頭がんの検出は内視鏡に比べて困難です。一方で胃カメラだと胃のみならず咽頭・喉頭・食道・十二指腸の観察が可能です。
④:苦痛についてですが、バリウム検査も発泡剤等を飲むためお腹が張るといった苦痛、検査後に下剤を飲むので便回数が増えてしまう負担など、内視鏡とは違った負担が生じます。またバリウム検査は10分ー15分かかるのに対し、内視鏡検査は5分程度と、内視鏡の方が苦痛を感じる時間も短いです。また内視鏡も鼻から挿入したり、細径の内視鏡を使用したりすることで苦痛軽減に努めています。
⑤:検査による有害事象について、内視鏡よりバリウムの方が比較的安全とされていますが、バリウム検査による放射線被ばく、またバリウムが腸管内に残留する危険性(盲腸や大腸憩室)、腸管穿孔の危険性があります。
⑥:バリウム検査で異常が見られた場合、2次検診となり結局内視鏡検査を受ける事になります。そして2次検診の判定を受けた方全員が内視鏡検査を受けている訳ではなく、その為胃がんの発見が事実上遅れてしまう事があります。一方で内視鏡検査であれば、異常が見つかればその場で細胞検査(生検)を施行する事でがん細胞が発見される事が出来、確定診断に繋がる事があります。
以上より、実はバリウム検査が胃カメラより明らかに優れている根拠はあまり多くはありません。ではなぜバリウム検診が行われているかと言うと、バリウム検査はコストパフォーマンスに優れている事、検診車があり病院外でもできる事、バリウム検査を行えるのは医師だけではなく放射線技師も検査できるため短時間で多くの人数を検査できる事。であると言われています。
もちろん検診の場合コストパフォーマンス及び効率性は重要な要因です。しかしながらやはり「癌の早期発見」「精度の高い検査」「がんによる死亡率の低下」という目的を考えると現在では内視鏡検査を受ける事が勧められると思われます。
当院は札幌市胃がん検診医療機関に指定されております。当院は月に80人程度胃カメラを行う体制を整えておりますので、内視鏡検診をご希望される方は、お電話もしくはラインにてご予約下さい。
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